黒衣 くろご の役割り              代表 松尾 倶子 

檜枝岐(ひのえまた)歌舞伎
檜枝岐(ひのえまた)歌舞伎

 酷暑も一段落した9月6日7日、福島「ひいらぎの会」主催の尾瀬沼トレッキング&檜枝岐歌舞伎鑑賞会に小形代表からお誘いがあり、千葉に住む姉と参加いたしました。
 奥深い山あいの静まりかえった会津高原の檜枝岐は「幽玄の地」そのもので、念願の尾瀬トレッキングは天候不順のため次回になったものの、前日の夜の檜枝岐歌舞伎は目を見張るものでした。
 歌舞伎の役者は全て村人で、村人によって作り村人によって守られています。毎年5月・8月・9月の第一土曜日の3日間のみの開催ですが、260年余り続く村の伝統行事として受け継がれています。この日は雨が降ったりやんだり、私たちは雨具の身支度をし、歌舞伎通りの灯篭に灯りがともるころ舞殿へ向かいました。開演30分前にもかかわらず人、人、人。すでに1000名近い人で、この小さな温泉宿のどこから集まってきたのか…。
 幕開けの最初に演じられる「寿式三番叟」そして演目「鎌倉三代記・三浦別れの段」。許婚、時姫が夫、三浦之助の敵の大将、北条時政の娘であったことから、夫の「誠、三浦之助の妻ならば父、時政を殺せ」との命令に夫につくか、親につくか、最後に時姫は、父、時政を討ってみせると言い切る。舞台狭しと演じる役者もさることながら、役者の蔭で衣装の早変わりを助けたり、小道具を受けたり、手放したりする「黒衣」の役割り、この早わざ.に、舞台前中央で見ていた私は釘付けでした。
 ここ何年間、相談の電話のメインが、「主治医がはっきりしたことを言ってくれない」「いいという事はあれもした、これもした、けれど体調が…」。歌舞伎の役者ではないけれど、患者にとっての本当の「黒衣」の役は自分自身です。順調に快復しているときは、身近な人の「黒衣」の蔭の力を忘れ、体調が思う通りいかなくなると、一変、主治医を責め、高いサプリの効き目のなさにあたる。
 今、自分にとって何が必要か、あれもした、これもしたという
結果ではなく、これで行く!という自分のやり方を掴みとり、継続させること。
 優雅な中に初志貫徹の時姫は、雨空をも一瞬にして、星の夜空に変えてしまいました。空気がおいしかった、初秋の東北の旅。久しぶりお会いした「ひいらぎの会」の皆様、姉共々大変お世話様になり、本当にありがとうございました。
平成20年9月27日 No.22