楽しさと苦しみの理由    安保 徹 

 私達は生き続ける過程で楽しみと共に苦しみに出合います。平均的な人のその割合は、楽しみ:苦しみは55:45くらいかと思っています。中には苦しみの方が多くて、こちらが70%を越しているかもしれません。
 最近私は、人生が楽しみだけでない理由に思い当たりました。その理由は、私達の先祖細胞が20億年前に酸素の嫌いな「解糖系生命体」と酸素の大好きな「ミトコンドリア生命体」の合体によって生まれたからなのです。
 今でも私達はこの二つの生命体のせめぎ合いでエネルギーをつくりながら生きています。解糖系は酸素無しに糖を分解してエネルギーを作っています。そして、このエネルギーは分裂と瞬発力のために使われています。低体温でも働きます。一方、ミトコンドリア系は酸素を使ってエネルギーを作っていますが効率が良く、持続的な仕事にエネルギーが使われています。体温が高いとよく働きます。
 子供時代は成長(分裂)と瞬発力が主体で良く食べて生きています。大人は二つの系の調和の時代です。老人になるとミトコンドリア系にシフトし続けます。瞬発力は低下しますが持続力は残り、食べる量が少なくてもOKです。
 大人の調和の時代に怒りや不安があると交感神経緊張から血管収縮が強まり、低体温と低酸素が来ます。解糖系が盛んになり瞬発力がさらなる怒りを助長します。この状態が長引くと分裂の世界(発ガン)に入ります。ガンは20億年前の「解糖系生命体」への先祖返りなのです。
 おだやかに生きて調和の時代を生き抜き、ミトコンドリア主体の仙人の世界に入るためには、生き方に注意が必要になります。つまり解糖系に偏らないことです。怒りの対極は感謝の世界です。また、からだが温かい状態です。
 このように、私達は二つの生命体の葛藤の世界で生きているので、偏った生き方になり易く楽しみと苦しみが混在する宿命になっています。しかし、心に感謝とからだに温熱があれば、調和の時代を生き抜き仙人の世界に入れるわけです。調和が崩れ解糖系に偏ると病気やガンになるわけです。

あおば通信23号より

(新潟大学大学院医歯学総合研究科教授)

■東北大学医学部卒業。米国アラバマ大学留学中1980年に「ヒトNK細胞抗原CD57に対するモノクローナル抗体」を作製、英文論文の発表200本以上にのぼる。国際的な場で精力的に研究成果を発表、活躍し続けている世界的免疫学者。著書に「未来免疫学」「絵でわかる免疫」「免疫学問答」「免疫革命」など多数。